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【仙台「ビストロ プルニエ」松田龍之介さん、高橋智秋さん】料理、ワイン、器…。そのすべてで物語るテロワージュ

プルニエ

 

魚料理が自慢の、住宅街の一軒家ビストロ

仙台市若林区の荒井地区。地下鉄東西線の開通で目覚ましい都市化と、昔ながらの長閑な田園風景が混在するこの町に、魚料理が自慢の一軒家のビストロがあります。それが、「ビストロ プルニエ」。この場所の住所が、現在の「なないろの里」に改名される前の「梅ノ木」から、オーナーシェフの松田龍之介さんが名付けました。魚料理が有名で、後にフランス風の魚料理全般を表す言葉となったパリの名店「プルニエ」と同名だと知ったのは、だいぶ後になってからだったそう。

そんなエピソードも少年のような笑顔で話す松田さん。子どものころから、料理をするのが大好きだったそうです。「小学校の家庭科の調理実習が大好きで、率先してやっていました」という松田少年。高校はお父様が建築家だったこともあって、宮城高専の建築家へ進学します。「ものをつくったり、組み立てるのも大好きだったんで。でも、自分の将来を考えたときに、やっぱり料理がしたい!と思って」。両親に意を決して伝えると、あっさりと了承してくれたそうで「あっさりしすぎて、えっ?ってなりました(笑)」と、松田さん。

プルニエ松田さん

自身との関係性や距離、想いと近い人、食材、モノ、コトを大切にしたいとはなす松田さん

宮城高専を卒業後、上京して調理師専門学校へ入学した松田さんは、初めての調理実習でつくったオニオングラタンスープとロールケーキに「ああ、自分も第一歩を踏み出したんだ」と感激。1年間しっかり料理の基礎を学んで、恵比寿のウェスティンホテルに就職し、その後は都内のフレンチレストランで研鑽に励みます。

そんな中、東日本大震災が起こります。松田さんが30歳になる年でした。「いずれは仙台に戻りたいと思っていたこともあったのですが、様子を見に帰ってきたときに、自分の知っている風景がとはまるで変っていて…。ものすごいショックでした」。松田さんは、現在の店舗からも近いところで生まれ育ったこともあり、その光景を目の当たりにして仙台に戻ってくることを決意します。

仙台に戻ってきてからは、フレンチレストランや結婚式場などで働き、ついに独立を果たします。「でも、ぜんぜん何も考えないまま独立しちゃって。何も知らないし、誰も知らない状態でのスタートでした。でも、自然と農家さんとつながり、漁師さんとつながり…。今のスタイルになったんです」。

プルニエ

ランチタイムには陽光が差し込み、あたたかな雰囲気に。居心地のよい空間でゆったり食事を楽しめます

三顧の礼!?で叶った、最強バディ

プルニエ松田さん高橋さん

まさに“最強のふたり”となった、オーナーシェフの松田さん(左)とマネージャーの高橋さん

現在の「ビストロプルニエ」には、メニューがありません。というのも、ランチ1コース、ディナー3つのコースで、前日までの完全予約制。メニューの内容は、仕入れによって食材が変わるため、松田さんの相棒である高橋智秋さんがお客さまとコミュニケーションを取りながら説明します。「高橋さんとは、仙台に帰ってきた時に知り合ったんです。飲食関係の人だって知らずに知り合いました。その後、どうしても彼と一緒に店をやりたくて誘ったんですけれど2回断られて。それでもあきらめずに3回目の電話をしたら、ちょうど前の店を辞めるタイミングでやっとOKしてもらえたんです」。

三度目の正直で“伴侶”を得た松田さんは、料理に没頭できるように。「お酒とのペアリングとか、お客さまとのコミュニケーションだとか、そういったところのすべてを安心して任せられるんですよ」。

自分の目で見極めた食材を最高の物語とともに―

スープ・ド・ポワソン

「スープ・ド・ポワソン」は、牡蠣そのものをミキサーにかけた濃厚な味わいの一品。川崎と秋保がつないだ物語も素敵です

取材当日、松田さんが作ってくれた料理は2品。1品目は「スープ・ド・ポワソン」。

コースで使用している魚の頭や骨で取ったスープに、牡蠣の身を合わせてミキサーで回し、濃厚な味わいの牡蠣のスープに仕上げました。この牡蠣も、松田さんが漁に同行させてもらった「後藤水産」の濃厚で栗見―な味わいが特徴の鳴瀬牡蠣です。料理に合わせたのは、川崎町の「アルフィオーレ」のロゼ。高橋さんは「フランスの魚ベースのスープで有名なのは、ブイヤベースです。このスープはプロバンス地方の料理なのでどういうワインが飲まれているのか調べてみたところ、赤ワインが多かった。赤ワインの製法で皮を漬け込まずに作るのがロゼの一つの製法なので、『このスープにはロゼでいこう!』と思いました。そんなときに、アルフィオーレさんのロゼと出合えたんです」。さらに、うれしい偶然がありました。高橋さんが知人の紹介で出合いたまたま購入してあった、川崎の土で作った野焼きの器。「器もあるし、これはもう運命だな、と思いましたね」と、高橋さんは思いっきりの笑顔を浮かべます。スープを川崎の土で作られた器に入れ、秋保ワイナリーのワインの絞りカスで作った天然酵母パンを添えます。「アルフィオーレさんは、最初秋保ワイナリーさんで間借りしてワインを作られていたようで、それをふまえて物語のある一皿になりました」と、松田さん。

真鯛のポワレ

「真鯛のポワレ」は、火入れにこだわって仕上げた一品。甲州シュールリーの上品な酸味が魚のうまさを引き立てます

2品目は、神経締めして10日熟成させた「真鯛のポワレ」。熟成させることでうま味をグッと増した真鯛は、火入れに注力して仕上げ、輝くような切り口に。真鯛のアラからとったクリアなスープとすりおろした伊豆沼れんこんを合わせた、とろみのあるソースをあわせて完成です。合わせるワインは、秋保ワイナリーの「甲州シュールリー」。高橋さんは「料理とワインの産地を合わせるのもひとつのセオリーですが、今回は、仙台市内のワイナリーのワインを合わせたいと思いました。そんなときに、フランスのロワール地方という大西洋側でシュールリーがつくられていることを思い出したんです。シュールリーは、発酵中に出た澱を取り除かずにつくるので、アミノ酸が豊富で上品な酸味があるのが特徴。白身のお魚にはぴったりなんですよ。産地ではなく、ワインの製造方法と食材を合わせても面白いのかなと思い、このペアリングにしてみました」と。

年末には、家で温めるだけで気軽にフレンチが楽しめるテイクアウト用BOXを販売したり、酒販免許を取得して、テイクアウトメニューでのペアリングを提案するなど、自由な発想で生産者やお客さまとつながっている松田さんと高橋さん。次の二人の“一手”も楽しみです。

基本情報
施設名
ビストロプルニエ
所在地
仙台市若林区なないろの里2丁目29−11
電話番号
022-357-0730
定休日
月曜日、火曜日定休
備考
ランチ 11:30〜14:30.(L.O12:30)
ディナー17:30〜22:00(L.O19:30)
*前営業日までの完全予約制
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