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【名取「浜や」池田良さん】港町・閖上の心活き。海鮮のごちそうでみんなを笑顔に

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

 

海にそそぐ名取川のゆったりとした流れを眺めながら、地元の新鮮な魚介料理を楽しめる「漁亭浜やかわまちてらす閖上店」。名取市閖上のランドマークとして2019年4月にオープンした商業施設「かわまちてらす」の一角にあります。浜や(有限会社まるしげ)は創業70年。魚の仲買商をスタートに、料理店として地元で長く親しまれてきました。津波で被災しながら企業としていち早く立ち上がり、名取・閖上の復興のけん引役として地域に活気を呼び込んでいます。

食の彩り豊かな港町。地元の魅力伝えたい

「震災後はたくさんの方々の支援のおかげでここまで来ることができました。今、お客様からの美味しかったという一言が鳥肌が立つくらいうれしいですね」。と話すのは料飲部マネージャーの池田良さん。

津波で被災した浜やは、その年(2011年)の8月にあすと長町に震災後初の店舗を構え、同年11月にはJR仙台駅の駅ビルにエスパル仙台店をオープン、と地元の企業としては早く力強く立ち上がりました。いよいよ地元・閖上にかわまちてらす店ができ、震災10年を経て、名取・閖上が誇る食材で店に人を呼びたい、自分たちの料理で喜んでもらいたいという気持ちがより一層強くなったそうです。

「被災地のイメージから少しでも早く抜け出したい気持ちもありますが、とにかく名取・閖上は食材に恵まれていると実感しています。港町ならではの新鮮な魚介、特に赤貝や北限のしらす、せり、郷土料理のはらこ飯・ほっき飯…など季節ごとに彩りがあります。特に全国的にも知られる閖上産の赤貝は、はずれがない。鮮度はもちろん抜群で、活をいれた(まな板に叩きつけ身を締める)ときの身のはじきかたが違う。食感も味の広がり方も格別です」と胸を張ります。

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

自分たちが提供する美味しい料理は、食材を作る生産者の努力から生まれている…。地元の生産者との数々の出会いも、そうした思いを後押ししています。

「閖上は、名取川や阿武隈川など太平洋に注ぎ込む川の栄養が豊富に混ざり合う漁場ですが、恵まれた環境に甘えることなく、漁師さんたちは赤貝の漁期を決め、稚貝を乱獲せずに海を守っているんですよ」

そうして水揚げされる3年子の赤貝は豊洲市場でも人気の高級食材に。最近注目の北限のしらすは、震災後に原発事故の影響を受け、それまでの「北限」の相馬で漁が出来なくなったこともあって相馬、閖上の両方の漁師さんたちが協力して、しらすを水揚げする体制を整えました。海だけでなく、仙台のせり鍋ブームを支えているせりの産地、閖上に近い名取市の上余田・下余田地区のせり農家さんもしかり。気候風土と向き合いながら、受け継いだ食と産業を守り育てているのです。

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

冬の時期はなんといってもせり鍋。鮮度抜群のせりは、さっとしゃぶしゃぶするくらいで食べるのがコツ。しょうゆベースのシンプルな出汁に、にじみ出る鴨肉の旨味とせりの清涼感を楽しめる

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

「赤貝のなめろう」は赤貝のコリコリした食感を残しながら叩き、味噌やネギ、みょうがも加えてねっとりと混ぜ合わせる。お酒にはもちろん、ご飯にも

調理主任の伊藤隆児さんも「生産者さんが一生懸命育てた食材を受け取っている自分たちだからこそ、ゴールのお客様に向けて気持ちをのせて出しています」と力を込めます。浜やでは、メインメニューのほかに「お薦めメニュー」があり、客層に応じて各店に任せられています。閖上まで足を運んでくれるお客様に対して、伊藤さんがメニュー考案の際に一番心掛けているのは「閖上らしさ」。赤貝を提供する際も、刺身や寿司のほか、赤貝好きにはたまらない、盛りのいい「赤貝丼」など、産地らしい工夫をしています。

最近は、料理を出したときに驚いてもらえるような盛り付けを意識しているそう。

「お客さまの嬉しそうな顔や、美味しいという言葉が何より。料理の仕事をやっているやりがいって言ったら、そこしかないですよ!」とにやり笑顔。厨房に直接声を掛けられることがなくても、最近はインスタなどにアップする人が多く、反応がすぐ分かるのもモチベーションになっているそうです。

名取で唯一の蔵・佐々木酒造店はご近所同士。復興の思い乗せた日本酒を味わえる

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

左から「玲瓏」「閖」「浪の音しぼりたて生原酒」(いずれも佐々木酒造店)。お酒同士や料理と合わせて味わいを比べ、好みのものに出合って欲しい

お酒を合わせるなら、唎酒師でもある池田さんがチョイスする日本酒を。東北・宮城のこだわりのお酒が揃いますが、3種類の飲み比べセットがお薦めです。中でも「閖上セット」は、名取市で唯一の日本酒蔵で、閖上で150年の歴史を持つ「佐々木酒造店」のお酒を飲み比べできます。

「浪の音 しぼりたての生源酒」は、県産ひとめぼれを使って作られる力強くピュアな味わい。蔵の定番酒で、地元に昔からのファンも多いお酒です。「閖(ゆり)」は、震災後に復興を願って誕生した純米酒。名取産ひとめぼれを使って、キレのあるすっきりとした味わいに仕上げています。

純米吟醸「宝船浪の音 玲瓏(れいろう)」は、華やかさもあるフルーティなお酒。玉の触れ合いで生じる澄んだ音色をあらわす意味です。米と米の擦れ合うイメージや、街の人たちが震災で離ればなれになっても響き合うイメージで名付けたそうです。

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

「地元に誇れるお酒があり、お客様に自信を持ってお薦めできるのが嬉しい」(池田さん)

佐々木酒造店は、浜やかわまちてらす店から徒歩1分ほど。池田さんいわく「贅沢なくらいすぐそこ」にあります。佐々木酒造店やはり蔵も店も津波で流され、一時は仮設の蔵で酒造りをしていました。蔵の専務を務める佐々木洋さんとは同級生で、閖上の未来についても語り合う同士です。浜やで飲んで帰りに蔵でお土産を買うのもよし。もちろんその逆のコースもあり。美味しい出会いが出会いを呼ぶ、店のはしごを楽しむ人も多いそうです。

美味しい食材を生かす「人」が宝。まちも店も盛り上げていく

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

「地元へのお恩返しのつもりで気持ちをのせて料理を届けています」(伊藤さん/左から2人目)

浜やでは、お客様が帰る際「ありがとうございます」と声を掛けます。「ありがとうございましたという過去形ではなく、これからも関係は続いていくイメージ」なのだそう。

池田さんも伊藤さんも閖上出身。一つひとつの言葉から店や地元をみんなで盛り立てていこうという気概を感じます。

同社では、社員・スタッフがそれぞれ仕事やプライベートで叶えたい夢を宣言する場を設けているそう。夢がかなうのを互いに応援する、そうした社風が、全体のポジティブな雰囲気を作り、あの甚大な被害を受けた震災の後にも「街も店も全部流されたけど、夢は流されてないと思えた。みんな希望を持って前を向けた」(池田さん)と振り返ります。

今後の夢を伺うと、池田さんは「浜やの夢を実現させ、スタッフの皆さんでビールかけをしたい」、伊藤さんは「調理技能士資格の取得。あとはみんなで会社を大きくして、たくさんの人に浜やの良さを伝えたい。17歳で入社した後、一度ほかの店を転々としていた時期があったのですが、離れてみて浜やの良さを再確認したので…。ここで働くことを目指したくなるような会社にしたい。私は浜やのおかげで成長できたので、これからも自信満々で働いていたいですね」

料理も人も活きがいい。旬の閖上を味わいにぜひ、浜やを訪れてみてください。

漁亭浜やかわまちてらす閖上店 

基本情報
施設名
漁亭浜や かわまちてらす閖上店
所在地
名取市閖上中央1丁目6番地
電話番号
022-398-5547
備考
11:00~16:00(土・日・祝日は~20:00)
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