孫の手トラベル寺井昌美さん・佐藤聡さん 「 FoodCamp~生きがいに繋がる旅へ~」【インタビュー】

2020年8月28日

 青空の下、緑の畑に現れるその日限りのアウトドアダイニング。孫の手トラベル(福島県郡山市)が手掛ける「FoodCamp(以下フードキャンプ)」は、福島の豊かな食が生まれる現場こそ観光資源として、各地の生産者を訪ねるツアーを開催しています。畑ツアーや収穫体験のほか、畑のダイニングで楽しむシェフの料理が人気。見慣れた田園風景の中で非日常の食体験を楽しめるとリピーターを増やしています。県内各地を飛び回り、魅力満載のツアーを企画する同社食事業部の寺井さんと佐藤さんにお話を伺いました。

福島の食の魅力を再発見。「フードキャンプ」とは

寺井さん:フードキャンプは、お客様が収穫体験や畑ツアーを通して、風土と向き合い農産物を育て上げる生産者の工夫や苦労、楽しみなどの思いに触れることができる交流の場です。福島の一流の生産者たちをヒーローにしたいというのが、社長(山口松之進)の思いです。

 目玉は当日限定で畑に設置するアウトドアダイニングで、旬の食材を生かしたシェフの料理を楽しみ、ツアーを通して福島の食の豊かさを実感してもらおうというものです。家族や友人らと参加する方も多いですが、1人でも参加しやすいのが魅力。集合場所までは郡山市内なら自宅までの送迎付きで高齢者や交通手段のない方にも喜ばれています。

 そうしたサービスは、孫の手トラベルの母体が郡山観光交通というバス・タクシー会社で、20年ほど前から地域の需要に応えて始めた介護タクシー事業がきっかけです。家に閉じこもりがちな高齢者が1人でも気軽に出掛けられるサービスを提供すれば、高齢者の生きがいに繋がるのでは…と、2007年に旅行代理店業務を始め、自宅送迎付きの観光ツアーを主催するようになりました。

 食への取り組みは、震災後、食産業の風評被害に危機感を持って立ち上がった人たちとの出会いが大きな転機となりました。郡山市の日本調理技術専門学校に事務局を置く(一社)食大学が、生産者と消費者をつなぐ「開成マルシェ」を開催。同じ場にイタリアン「アルケッチャーノ」(山形県鶴岡市)の奥田政行シェフがレストラン「福ケッチャーノ」を開くなど農家支援が広がり、当社も関わるようになっていったのです。その後、奥田シェフの店を当社が引き継ぎ、新たに「Best Table」をオープン。福島の食材の魅力を伝える中で、コープさっぽろが開催し話題になっていた「畑でレストラン」の情報を知った社長は、すぐにキッチンカーを購入。郡山を中心に生産者のもとを訪れるツアー「フードキャンプ」を立ちあげました。2015年秋のことです。

旬の新鮮な食材が生まれた場所で楽しむ畑のダイニング。参加者から歓声が上がる。

 

生産者とシェフが連携。フードキャンプが生み出すものとは

佐藤さん:生産者にとって、自分の野菜をシェフに調理してもらい、目の前で参加者の美味しい笑顔を見ることが出来るのはかけがえのない経験。シェフにとっても生産者が思いを込めた野菜を目の前でどう調理するか。キッチンカーはいつもの調理場と違うスペースなので、当日にトラブルが起こることもありますが、それも経験とチャレンジしてくれています。生産者もシェフも連携してこの場を大事にしている、楽しんでいる。臨場感もあってそれがお客様にも伝わるのか、単に「美味しかった」だけじゃない満足感を感じてもらえているようです。

寺井さん:参加者はリピーターも多いですね。毎回3~4割はリピーターで、人によっては5回、10回と参加して下さっている方も。地元の方が多いですが関東など他県からもいらっしゃいます。

佐藤さん:当日限りのレストランを最高のものにするために、企画の段階で生産者、シェフ、私たちのそれぞれの思いを共有してから始めることを大事にしています。必ず、生産者とシェフとの組み合わせでインタビューを重ね、互いに思いを語り合うので、初めましての関係でも、もともとの知り合いでも仕事や地域に対する深みのある話になっていくんですね。
生産者は、開成マルシェでのつながりから声を掛けています。マルシェで消費者とじかにふれあいたいと求める生産者は、フードキャンプとも相性がいい。シェフは昨年からは特に、地元の旬の食材を大切にしている方をと、生産者の知り合いや地元店に声を掛けています。

震災復興へ。地域の賑わいを新産業に託した「ふくしま農家の夢ワイン」ツアーも開催

 

東北・食と美酒のテロワージュへの期待と、今後の展望

寺井さん:テロワージュの取り組みは、食と地域の魅力を、お酒とのマリアージュでPRする視点がおもしろい。また、県の枠を超えて東北一体で発信していこうという発想にも共感しました。私たち1事業者として発信するより、東北全体で発信した方がさらに広く伝えていけるはずです。

 県外、海外からの来訪に期待していますが、顔の見える生産者から仕入れた新鮮な旬の食材を調理して食べることの豊かさは、地域の方にとって福島を誇りに思えるのではないでしょうか。私たちの夢は、県下59市町村すべてでフードキャンプを開催すること。魅力的な地域や一流の生産者は各地にいます。スター生産者とシェフが地域の観光資源になるわけです。

佐藤さん:自社で企画募集するだけでなく、フードキャンプの仕組みを企業や自治体などに活用してもらおうと働きかけを始めました。自治体は地域の魅力発信に役立ちますし、企業は自社製品の販促に利用できます。一例としてビール会社がファンづくりの一環として、畑でビールと合わせた料理を楽しむツアーを企画されました。個人で貸し切り、好きなシェフや生産者さんとのフードキャンプを楽しんでもいいですね。コロナ禍で室内での結婚式やパーティーができない方も多いので、結婚式場のプランとして提供できないか話を進めているところです。

寺井さん:私たちの社是は「生きがいの循環」です。お客様の生きがいが社員の生きがいになり、またそれが…と循環していく。フードキャンプに関わったり、参加したりする人たちが人生や仕事に生きがいを見出し、その輪が広がっていくことを願っています。

生産者のもとへ。「毎日走行距離200キロ」という寺井さんは飲食業の経験を生かし、2017年から食事業部を担当。

「復興や地域への思いのある生産者さんやシェフに会えて感動の毎日です」と佐藤さん

 

◆寺井昌美(てらい・まさみ)

1967年、郡山市生まれ。震災で実家が全壊し、しばらく東京へ避難後、
2017年郡山に戻り、郡山観光交通株式会社に入社。
以前の飲食業の経験を活かし、食事業の企画・運営を担当。
四季折々の自然の中での食体験に、この上ない魅力を感じている。

◆佐藤聡(さとう・あきら)

1987年須賀川市生まれ。 大学院に進学のタイミングで東日本大震災を経験し、復興支援活動に従事。 大学院修了後は東京の企業に就職し、法人営業を経験。 結婚を機にUターンして孫の手トラベルに転職し、食事業を担当。将来は夫婦でゲストハウス開業を目指している。

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