南三陸ワイナリー・佐々木道彦さん”ワイナリーオープンに寄せて”【インタビュー】

2020年8月28日

 2020年9月、南三陸町の志津川湾を望む地区に南三陸ワイナリーの醸造所がオープンします。ワイン用ぶどうの試験栽培から始まり、2017年に「南三陸ワイナリープロジェクト」としてスタートした取り組みは、耕作放棄地を活かしたぶどう栽培を進めながら、地域拠点としてのワイナリー設立を目指してきました。「南三陸の食材に合うワインづくり」の事業構想を中心となって進めてきた、南三陸ワイナリー代表取締役、佐々木道彦さんにオープンに寄せる思いを伺いました。

南三陸ワイナリー代表取締役・佐々木道彦さん

「南三陸ならでは」のワイナリーの魅力とは?

ここでつくるワインは、南三陸の食材と合わせて楽しめるよう、味わいは辛口を基本にしています。南三陸は豊富な海産物が自慢ですが、大きな括りで言えば三陸沿岸部はどこも同様に海の幸が豊富。その中で、南三陸町が養殖の発祥である銀鮭や、牡蠣、タコなど町の特産品を地場産のワインとマリアージュしてPRすることで、新しい南三陸の食文化を創り上げることができればと思っています。

南三陸ワイナリーは、「海の見えるワイナリー」として、漁港に近い水産加工場だった100坪ほどの建物を改修して醸造場を設立します。併設の25坪の建物内のワインショップにはキッチンを設け、週末にはシェフを呼んで料理とワインを楽しむイベントを考えています。人が集まる場として、町が進めている木質ペレットストーブ事業の紹介や地域木材を活用した木工品、水産加工品などを展示販売するショールーム的な役割も担う予定。森と里と海がつながる町の新しい営みとして、表現の場がようやくできるという思いです。

沿岸部らしさといえば、今年2月に開催した海中熟成ワインを楽しむワイン会「牡蠣とワイン in 南三陸」もそのひとつ。海中熟成とは、ワインを海に沈めて早く熟成させる手法ですが、ワインを牡蠣用のネットに入れ、南三陸町・戸倉地区の養殖棚に吊るして沈めました。参加したお客様と一緒に、漁師さんからワインボトルにロープを結びつける技を教わったり、海水から保護するため、コルク栓をロウ付けしたり。みんな楽しんで作業していましたね。

復興を目指す南三陸町。ワイナリーに託す思いとは

震災後、沿岸部にボランティアとして訪れていたとき、住宅の基礎しか残っていない南三陸の町並みを沢山見て「復旧はできても新しい事業を起こしていかないと復興はないのではないか。このままだと町そのものがなくなってしまうのでは」という危機感を持っていました。大手楽器メーカーで商品開発や新規事業を立ち上げる仕事をしていたので、新規事業で復興を後押ししたいと、2014年に会社を辞めて静岡県から仙台に移住しました。

もともとワインは好きで、通っていた秋保ワイナリーで南三陸ワインプロジェクトの取り組みを知りましたが、以前勤めた仙台の会社で、人気のワイン漫画『神の雫』の原作者(亜樹直)とともに日本人のためのワイングラスの商品開発を手掛けたことで、ワインの奥深さに触れたんです。

例えば、ロックグラスは1つですが、ワイングラスはたいていペアで購入される。それは「ワインはコミュニケーションのための飲み物だ」ということなんですね。実際、ワインは話のきっかけになる要素が多い。同じ品種であっても地域や造り手が誰かによって味わいが変わるなど、造りや気候風土、文化などもストーリーとして語りやすく、話が膨らみ、ワインを通してみんな笑顔になるんです。

気候風土を感じる収穫祭の様子

 

ワイナリーは地域の食や産業とつながりながら賑わいを生むことができます。海中熟成ワインの会では、初の南三陸産シャルドネを使ったワインのお披露目も兼ね、南三陸のテロワージュを楽しんでもらえるよう、シェフを呼んでワインに合う料理を提供。南三陸町の牡蠣や放牧豚、リンゴの生産者さんも同席し、仙台や関東からの参加者と生産者さんはもちろん、業種の違う生産者さん同士も交流できたと喜ばれました。秋保ワイナリーの毛利さんの「テロワージュ」構想への思いは同じなので、ワインをきっかけにつながる場の役割も大事にしていくつもりです。

また地域の食材は和食で表現されることがほとんどなので、ワインに合わせ、洋食のアプローチで提供することで食材の味の再発見になるかもしれない。今後の商品開発にもつながっていくと思います。
以前の大手メーカーの仕事では購入者の反応をじかに知ることはあまりありませんでした。ワインは目の前で美味しい、楽しいといった笑顔があり、会話を交わすこともできる。個人的にもやりがいを感じています。 

収穫祭の様子

 

海の見えるワイナリーの今後の展望

南三陸町ではワイナリーはもちろん、事業としてのぶどう栽培も初めての新しい産業です。現在、入谷地区の畑(30a)に500本、今年新たに歌津地区の田束山山頂の畑(1.9ha)に2300本を植えることができました。品種は試験的なものも含め、7品種を育てています。

 三陸海岸を一望できる田束山は、ツツジが有名で、「つつじ祭」もある観光地。山頂の畑で作業しながら眺める海は、毎日色合いが違って、会社のロゴに施したエメラルドグリーンの日もあれば、真っ青な日もあります。これまで応援いただいている方や初めての方も、収穫体験や収穫祭などで南三陸ワイナリーに来て、ぶどう畑から見える眺望をぜひ楽しんでもらいたいです。

 ワイナリー(志津川地区)と畑(入谷、歌津地区)、海中熟成ワイン(戸倉地区)の町内4地区すべてで活動しているのも、できるだけ多くの人に関わってもらいながら、ワインツーリズムとして町を周遊できるように考えているんです。田束山山頂の畑の近くに宿泊施設も計画しており、南三陸ワイナリーが沿岸の観光拠点になるように手掛けていきます。

入谷地区のブドウ畑。今年の生育は順調

 

栽培や委託醸造先の秋保ワイナリーでの醸造など、プロジェクトから関わって2年経ちますが、最初は町内でワイナリー事業が見えにくかったこともあって、「ワイナリーなんて無理」という空気もありました。でも実際にできたワインを手に取って飲んでもらう機会が増え、次第に南三陸ワイナリーの誕生を応援してくれる人が増えてきました。いろいろな人の協力や支援のおかげでここまで来れたことに感謝しています。

美味しいワインはぶどうの品質が8割と言われています。最初、デラウエアでつくった「DELAWARE2018」は日本ワインコンクールで宮城県初の奨励賞をいただきました。その年は品質が良かったんです。次の年は前年程よくない中で、ワインの味わいを調整するなど造りの技術の工夫を凝らしました。

 とにかくまだ始まったばかりなので、まずはいいぶどうをつくることが第一。町民の皆さんも誇れる美味しいワインをつくることに力を注ぎながら、南三陸の食とワインを楽しむ機会を提供してPRしていく。食材とワインのマリアージュだけでなく、食材と人、人と人、人と地域といった「輪」をつなげていくのが役割だと思っています。

地域の人から「贈答用に」とワインの注文を受けることも多くなったと佐々木さん

 

◆佐々木道彦(ささき・みちひこ)
1973年大阪府生まれ。大手楽器メーカーで商品開発や新規事業の立ち上げを担当。震災後のボランティアで沿岸部を訪れたことをきっかけに、2014年静岡県浜松市から仙台市に移住。住宅メーカーやものづくり企業を経て、2019年南三陸町地域おこし協力隊着任。同年南三陸ワイナリープロジェクトの法人化に伴い現職。

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