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【仙台「NOBATTE」平田誠さん、恵さん】国分町の片隅で 気仙沼に思いをはせるイタリアン

NOBATTE

 

仙台の夜の繁華街、国分町の小さなビルにある「NOBATTE(ノバッテ)」。カツオやメカジキ、サンマなどこだわりの宮城・気仙沼の魚介を中心に、旬の新鮮食材を生かしたイタリアンを楽しめます。

オープンは2011年7月。気仙沼出身のシェフ平田誠さんと、ソムリエを務める姉の恵さんは被災した故郷を応援したい思いで店を開きました。

ノバッテとは、気仙沼の方言で「(遠慮せずに)手を伸ばしてお食べなさい」という意味。故郷のお母さんをイメージさせる言葉ですが、気仙沼市は国内有数の水揚げ量を誇る気仙沼港を有し、地域の食や食文化を大事にする「スローフードのまち」。昔から豊富な海の幸で遠くから訪れる人々をもてなす港町ならではの文化がありました。そんな思いを込めた店は、地元出身者やファンが美味しいものを食べながら出会い、語らえる場になりました。

NOBATTE

シェフの平田誠さんは25歳のときイタリア料理に惹かれ飲食の世界へ。店はオーナーの照井誠さんと姉でソムリエの恵さんとの3人で営む

本日もオススメばかり。鮮度抜群の黒板メニュー

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平田さんの料理は、食欲をくすぐる風味や余韻をまとわせながら、素材の良さが印象に残ります。「素材そのものの美味しさを伝えたいという思いが強いんです」と話す平田さんは、自家菜園の野菜のほか、基本的に食材は産直などに出向いて、自分の目で見て仕入れます。食材からのインスピレーションで決めるので、毎日メニューは黒板メニューのみ。この日カウンターに山盛りに積まれていたみずみずしいキノコたちは「いろいろキノコのトリフォラーティ(炒め物)」になるよう。ホヤをカルパッチョに仕立てた「ホヤパッチョ」なんて楽し気なメニューもありました。

そのメニューも「あってないようなもの」だそうで、心得た常連さんなどは「今日のお薦めは?」「何か美味しいものを」とリクエストするそう。平田さんは、目の届く小さな店ならではの心遣いで、お客様の飲んでいるお酒や料理、さらには食べる様子も見ながら味を微調整しながら提供。日によって、またみんな同じ味の料理はないというところも、足繁く通うファンを引き付ける魅力なのかもしれません。

地酒に地ビール。気仙沼愛あふれる同店ならではのラインナップ

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日本産ワインはおもに東北のものを。「BLACKTIDE BREWING」のクラフトビールは数種類を揃える

ワインは、岩手、山形、宮城、福島…などほぼ東北のワイナリーのものを揃えていますが、お酒のラインナップも気仙沼色が色濃く、おもにソムリエの恵さんがチョイスしています。ざっと紹介すると、日本酒は気仙沼の地酒「蒼天伝」(男山本店)や「水鳥紀」(角星)などのほか、米、水、人(蔵)すべて気仙沼にこだわった地元酒販店が手掛ける純米吟醸酒「鼎心(かなえ)」も置いています。こちらは気仙沼でしか店頭販売しておらず、地元でも知る人ぞ知るお酒。日本酒の懐は深く、もちろんイタリアンにも合います。

また、気仙沼の内湾地区に2019年に創業したクラフトビール「BLACKTIDE BREWING(ブラックタイドブルーイング)」は、若い女性や子連れファミリーが立ち飲みで生ビールを楽しむ人気のスポット。オーナーの照井さんいわく「気仙沼の街の景色をおしゃれに変えた」話題のブルワリーです。ノバッテでは缶ビールの提供ですが、味わいの豊富さとカラフルなラベルデザインが魅力。常に数種を揃えているので飲み比べも楽しめます。

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サンマをシンプルに塩&ビネガーで軽くしめたマリネ。日本のブドウ甲州を使った白ワインは、滓(おり)とワインを長時間触れさせ旨みが溶け込んだ「シュール・リー」

旬の味わいがマリアージュでさらに味わい深く

さて、ある日のメニューからお薦めするならこちら。鮮度の良いサンマの旨味を引き立てすっきりとした味わいで楽しむマリネと、秋保ワイナリー(仙台市)の白ワイン「甲州2020シュール・リー」を。日本のブドウ品種「甲州」の特長をうまく生かした白ワインで、フルーティさと、キリッとしたさわやかさのある香り。甲州のほのかな苦みも料理に合います。

もう一品は気仙沼が水揚げ日本一を誇るカツオの料理を。「カツオのスコッタート」は、「表面を焼いた」という意味があり、タタキのイタリアンバージョンといったイメージです。カツオ独特の旨味に、炙りの香ばしさやもっちりとした食感が美味しく、これに合わせるのが、気仙沼のクラフトビール「BLACKTIDEBREWING(ブラックタイドブリューイング)」の「kesemoi(ケセモイ)」。

「どこかハーブのニュアンスのある香りが、スコッタートに加えたローズマリーの風味と合います」と平田さん。クラフトビールらしい苦みが味わい深く爽快で、料理の次のひと口を誘います。

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カツオのスコッタートと気仙沼のクラフトビール「BLACKTIDEBREWING」の「ケセモイ(気仙沼を指すとも言われる。静かな海などの意味)」。トロピカルで甘く奥行のある香り、旨みの中に程よい苦みがあり、滑らかなのど越しだ

顔が見える関係が生み出す。料理とお酒の美味しさと未来

「同じ風土で育つ食材として、東北のワインがうちのシンプルなイタリアンに合わないわけがないんだよ」とニコニコ話すのはオーナーの照井誠さん。「東北のワインは、素材のブドウのおいしさをそのままワインにしたような素直さがある」と印象を話します。お酒は長くバーボンか日本酒派でしたが、10年前に2人と一緒に店を始めてから、食事と合わせて楽しむワインの魅力を深く知るようになったそう。東北にも歴史あるワイナリーがありますが、このところ新規に立ち上げるワイナリーの数も増えきたのも関心を持つ理由のひとつ。

「その土地にワイン文化を根付かせるには、飲食店にも当然役割があるわけです」と話します。

NOBATTE

ノバッテではワイナリーとの付き合いを大切にしてきており、つくり手である醸造家(または営業担当者)と飲み手のお客様が出会う場として、メーカーズディナーなどのイベントも行ってきました。

「新しいワイナリーにとっては特にお客様の反応が直に分かる機会。また、作り手の顔が見える、思いを知るということは飲み手にとっても「おいしさ」にも繋がる。例えば赤が肉、白は魚といったセオリーを越えた料理との組み合わせが生まれることもあるんです。そういう面白さを伝え、一緒に気軽に楽しみたいですね」

今はまさに私たちが地元でつくるワインを食文化として迎え入れようとしている黎明期。つくる人、飲む人・食べる人が地域を想い、緩やかに繋がりながら、新しい食の文化を創っていくのかもしれません。

「気仙沼好きの隠れ家」とばかり紹介しましたが、ワインメーカーさんもお忍びで(!?)訪れるお店。初めてでも一人でも温かく迎えてくれます。どうぞ「のばって」楽しんで。

基本情報
施設名
NOBATTE(ノバッテ)
所在地
仙台市青葉区一番町4丁目3-11 M‐ONEビル4F
電話番号
070-6619-7029
定休日
日・祝日定休
備考
17:00~23:00
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